パーソナライゼーションはモバイルアプリ開発における最大のトレンドのひとつ。それもそのはず、顧客が抱える多くの悩みを解決できるのですから。
例えば、Salesforceの調査では、顧客の60%が自分たちのニーズを理解してもらいたいと考えていること、72%がパーソナライズされたメッセージのみに反応することがわかっています。90%のアメリカ人がパーソナライゼーションを積極的に受け入れているというデータもあります。
しかし、パーソナライゼーションのメリットを知っていることと、それをアプリにうまく実装できるかは別の問題。そこで今回は2回に分けてパーソナライズの実践方法を詳しく解説していきます。
モバイルアプリのパーソナライゼーションとは
まずは「モバイルアプリのパーソナライゼーションとはどのようなものなのか」という基本から始めましょう。
モバイルアプリのパーソナライゼーションとは、各ユーザーの行動や嗜好、メッセージへの反応などに基づいて、アプリ体験を個々にカスタマイズすることです。例えば以下のようなものが考えられます。
- ユーザーに合わせてカスタマイズされたコンテンツ
- ユーザーに合わせてカスタマイズされたレコメンド
- ユーザーに合わせてカスタマイズされた機能
もちろん効果もデータで示されています。80%のユーザーは、パーソナライズされた体験を提供されたときにより高い確率で商品を購入する傾向にあるのです。現在のモバイルアプリ市場において、パーソナライゼーションは重要なカギを握っているといえるでしょう。
モバイルアプリのパーソナライゼーションがもたらすメリット
続いては、アプリのパーソナライゼーションを実施する主なメリットについて解説していきます。
ユーザーエンゲージメントの向上
今日のマーケティングの世界では、ユーザーのアテンションをいかに高めるかが最も重要な要素となっています。モバイルアプリにパーソナライズすることは、ユーザーの注目を集めエンゲージメントを向上させる最善の方法のひとつです。
アプリにパーソナライズを施すことで、コミュニケーションがユーザーの個人的な嗜好に沿ったものになります。これが、ユーザーを惹きつけておくための重要な要素となります。「Netflix」の例を見てみましょう。
出典:CNET
Netflixでもユーザーが視聴するコンテンツの80%はレコメンドから発生していると推測しています。レコメンドはユーザーがコンテンツに高い関心を持ち、市場で優位な立場を維持するためのカギになっていると考えているのです。
そしてレコメンドの効果的な活用は、パーソナライゼーションがユーザーエンゲージメントを向上させることを示す最高の例ともなっています。
より良いユーザー体験の提供
ユーザーはアプリを使用する際にパーソナライズされた体験を求めていることは明らかです。しかし、それだけではありません。10人中8人のユーザーはより良いユーザー体験を得るために追加料金を支払う意思を持っているとされています。UXに1ドルの投資をすることで100ドルの利益が得られたとしても驚くべきことではありません。なんと、ROIは9,900%です。
出典:UX Collective
そして、パーソナライゼーションはアプリのUXを向上させる最善の方法です。パーソナライズされた体験を提供することで、ユーザーとアプリのコミュニケーションはよりスムーズで楽しいものになります。
ユーザーのニーズを把握するために、定期的にユーザーからフィードバックを得るようにしてください。これについては、「モバイルアプリのパーソナライゼーション初心者ガイド Vol.2 - 応用と成功のヒント -」で詳しく説明します。
CVR(コンバージョン率)の向上
モバイルアプリのパーソナライズを行う大きな利点として、CVRの向上を挙げることもできます。統計データでも裏付けられており、マーケティング担当者の63%が、パーソナライゼーションの主なメリットにCVRの向上を挙げているのです。
出典:Statista
では、パーソナライゼーションをどのように活用すればコンバージョン率を向上できるのでしょうか。ぜひ実践したい活用法の一部を紹介しておきます。
- パーソナライズされた商品レコメンド
- ターゲットを絞ったオファー
- カスタマイズオプション
パーソナライゼーションは、特にECアプリを構築する際に役立ちます。顧客が購入する可能性の高い商品やサービスをレコメンドすることで、CVRと売り上げを向上させることができるからです。
プッシュ通知をパーソナライズする
プッシュ通知は可能な限りパーソナライズして配信すべきものです。なぜなら、無駄で大量のプッシュ通知はユーザーを大きなストレスを与えてしまうものだからです。実際、ユーザーがアプリ利用をやめる一番の理由がこれだといわれています。
さらに、平均的なユーザーは1日に46件ものプッシュ通知を受け取っているという事実を考慮すると、そこからノイズを除去することがさらに重要になります。これを実現する最良の方法がパーソナライゼーションなのです。
写真会社のPhootoがパーソナライズされたプッシュ通知から得た成果を見てください。
出典:Push Engage
プッシュ通知をパーソナライズする方法は無限にあります。必要なのはあなたの創造性だけです。
例えば、Sephora(メイク、コスメショップ企業)のアプリから、下の図ような非常にタイムリーで気の利いたプッシュ通知が届いたと想像してみましょう。
出典:Taplytics
これは位置情報を活用したマーケティングの例です。Sephoraのアプリはユーザーが空港にいるとき、その空港にSephoraの店舗があることを検知すると、プッシュ通知を送信します。
このメッセージはタイムリーで遊び心があり、空港でのストレスを軽減することにも繋がっており、とても効果的です。またモバイルアプリが実店舗などの他のチャネルでの体験をサポートできることも示しています。
Peloton(オンラインフィットネスサービスの提供企業)の施策からもうひとつの素敵なプッシュ通知を紹介しましょう。
出典:Appcues
「Peloton」アプリはユーザーがクラスを終えるたびにプッシュ通知を配信します。ユーザーの名前と進捗状況が記載されたパーソナライズされたメッセージは、まるで友人やコーチと話しているような、自然で人間味のある印象を与えています。
タイミングも完璧で、ユーザーにアプリを開いてストレッチをするよう、さりげなく促してもいます。
このアプローチは瞑想アプリの「Headspace」でも採用されています。
出典:Vero
ユーザーがプッシュ通知をカスタマイズできるようにすることも大切です。これは株式取引アプリなどでよく見られる手法です。通知を制御できるようにしておかないと、プッシュ通知が届きすぎてしまう恐れがあるからです。
出典:The Trading Bible
ここまで紹介してきたアイデアは、プッシュ通知のパーソナライゼーション施策のほんの一部のものです。シンプルさやユーザーとの関連性を追求していけば、より効果的な方法も見つかるでしょう。
アプリ内メッセージをパーソナライズする
プッシュ通知と同様に、エンゲージメントを高めることを目的としてアプリ内メッセージをパーソナライズする方法はたくさんあります。しかもアプリ内メッセージにはプッシュ通知と異なる利点がいくつもあります。
ユーザーはアプリを積極的に利用している状況に置かれており、メッセージを受け取りやすいというのがひとつ。さらに、配信タイミングをよりコントロールしやすいという点。そして、プッシュ通知に比べて長文のメッセージを送ることができ、パーソナライズの機会が多いというメリットもあります。
それでは、パーソナライズされたアプリ内メッセージの例を見てみましょう。最もシンプルなのはユーザーの名前を含めることです。些細なことのように思えますが、メッセージに一気にパーソナルなトーンを加えることができます。
出典:Marketing and Growth Hacking
上の図のメッセージはユーザーとの関連性も強いものでした。なぜならそのユーザーは明らかにオファーを受けていなかったからです。適切なタイミングとコンテキストに沿ったメッセージはパーソナライズの大切なファクターのひとつです。
次にECアプリで利用されている良い例を紹介しましょう。
出典:WebEngage
上の図のメッセージでは、ユーザーがいくら節約できたかをお知らせしています。商品の購入だけでなく、節約額を知らせることでより良い気分を持たせようとしているのです。アプリの評価を同時に求めている点も秀逸です。ユーザーは商品を購入したばかりなので、レビューを書いてみようという気になるはずです。
アプリ内メッセージは静的なコンテンツだけに使用するものではありません。例として「Loom(動画作成アプリ)」での活用法を見てみましょう。
出典:Userpilot
これはオンボーディングのためのチェックリストです。プログレスバーのようなゲーミフィケーション要素はオンボーディングタスクを完了させるための非常に優れた工夫といえるでしょう。
パーソナライズされたアプリ内メッセージやプッシュ通知は、エンゲージメントを飛躍的に向上させることができます。どちらか一方ではなく併用することでより価値を発揮すると覚えておきましょう。
メールマーケティングへの活用
パーソナライゼーションはアプリでの施策に限定すべきものではありません。パーソナライズできるチャネルはほかにもたくさんあります。その好例がメールです。メールは強力なマーケティング媒体であり、すべてのアプリが活用すべきだと考えています。
メールに1ドルを費やすことで、40ドルのリターンが得られるという調査もあります。このROIは他のマーケティングチャネルの中でも最高水準のものです。
出典:Lyfe Marketing
パーソナライズされたメールはアプリのあらゆるフェーズで活用できます。実際、状況に応じたメールを送信することは、開封率やクリック率を向上させる優れた方法といえます。
代表例として、新規ユーザーがオンボーディングプロセスを完了した時点でウェルカムメールを送信する施策が挙げられます。以下は、BtoBデータプロバイダ「Clearbit」のサンプルです。
出典:Appcues
オンボーディング中にユーザーが特定のタスクを完了していない場合、メールでリマインドするのも良い方法です。Loomはデスクトップアプリをダウンロードしていないユーザーにメールを送信しています。
出典:Appcues
ユーザーの嗜好に合わせた内容のメールを送信するというシンプルな方法もあります。「Linkedin」アプリは、プロフィールに記載されたキャリアや業界に基づいて、潜在的な求人情報を定期的にメールで送信しています。これは求職者にとって役立つだけでなく、Linkedinプラットフォームへのトラフィック増加にも繋がります。
出典:HubSpot
もうひとつメールマーケティングの代表例としてチケット購入・販売アプリ「Ticketmaster」の施策を紹介しましょう。位置情報に基づいて、ユーザーの近くで行われるイベントをレコメンドしています。
出典:HubSpot
もちろん、最も一般的なパーソナライゼーションの手法は、誕生日などの特別なイベントに電子メールを送ることです。 多くの場合、これにはギフトや割引クーポンがついています。
出典:Campaign Monitor
より発展的なパーソナライゼーションと成功のヒント
本記事は「モバイルアプリのパーソナライゼーション初心者ガイド」のVol.1として、パーソナライゼーションのメリットや基本的な活用法について紹介してきました。しっかりと実践することができれば、これだけでも大きな成果を得られることでしょう。
しかし、ライバルたちとの競争を勝ち抜き、継続的に成果を出していくためには、より応用的な活用方法や実践時のポイントを知っておく必要があります。Vol.2はパーソナライゼーションより高度な実践方法と成功のヒントを中心に解説しています。ぜひご覧ください。