パーソナライゼーションの心理学 - ユーザー価値を高める行動科学に基づく3つの戦術

Repro Journal編集部
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2025.05.29
パーソナライゼーションの心理学 - ユーザー価値を高める行動科学に基づく3つの戦術

目次

「パーソナライゼーション」。今日のマーケティングの代表的なテーマです。One to Oneに限りなく近いデジタル体験をどうしたら提供できるのか。多くのマーケターが模索しています。有効に働くと、パーソナライゼーションは素晴らしい成果を生みます。しかし、残念ながら多くの場合、意図した結果には繋がっていません。何が足りないのでしょうか。

企業がプロダクトのパーソナライゼーションを行う際に犯す間違いを3つ紹介しましょう。単にユーザーが望むだろうと推測したものを提供すればよいわけではありません。ユーザーが「自分は理解されている、大切にされている、関わっている」と感じるような体験を創り出す必要があるのです。本記事では、ありがちな失敗を避け、ユーザーの心に響き、本当にエンゲージメントを高められる、そんなパーソナライゼーションを実現するためのポイントをご紹介します。

この記事は、Irrational Labsのブログ “The Psychology of Personalization: 3 Behavioral Science Tactics to Boost User Value” を著者の了解を得て日本語に抄訳し掲載するものです。

【間違い1】ユーザーが「理解されている」と実感できていない

パーソナライゼーションとは、「データをアルゴリズムに放り込んで、おすすめ情報を吐き出す」だけのものではありません。パーソナライゼーションの本質は、「ああ、このプロダクトは自分を本当に理解してくれている」とユーザーが感じる瞬間を創り出すことです。直接的ではないにしろ、ユーザーが伝えてきた「大切にしている」ことに対して、「きちんと配慮してくれている」と感じさせることが重要なのです。

友達にアドバイスを求めるときをイメージしてください。状況を細かく説明し、複雑なニュアンスまで丁寧に伝えるでしょう。ユーザーに価値をもたらすパーソナライゼーションと、偽物のパーソナライゼーションとの違いは、そんな相談に対して、一言でおすすめの方法を投げつけてくる友達と、しっかり耳を傾け、あなたが伝えた文脈を反映させながら、なぜそれが最適な道なのかを説明してくれる友達の違いに似ています。

もし、あなたのプロダクトが、ユーザーに「理解されている」と感じてもらえていないなら、機能面でのフィット感はあったとしても、楽しさや心地良さという情緒的なアドバンテージの多くを失っています。そして、パーソナライゼーションがもたらす価値を最大化する機会を逃しているのです。

【解決策】「コールバック」手法を活用する

ユーザーとの信頼関係や繋がりを築くためには「コールバック」を取り入れましょう。コールバックとは、ユーザーが以前に取った行動や伝えてくれたことを再び参照して提示する手法のことです。

「Netflix」はこの点を「あなたが視聴した作品に基づくおすすめ(Because you watched)」で上手く活用しています。これは単なるレコメンドではなく、ユーザーの過去の行動をしっかりと認識していることを示すものです。

つまり、「私たちはあなたを覚えています。あなたが何を大切にしているかを理解していますよ」と伝えているのです。

類似コンテンツを提示する際、ユーザーが以前に下した具体的な決定を示すことで、これらのレコメンデーションは「セルフハーディング」という行動を促します。セルフハーディングとは、自分の過去の行動を追随するという、人間が自然に持つ傾向を指す社会科学用語です。

私たちは、以前行った行動を再び繰り返しやすい傾向にあります。行きつけのカフェでお気に入りのドリンクを毎回頼んでいる人はいませんか。過去の行動や意思決定は未来の行動に影響を与えているのです。ゆえにコールバックはユーザー行動を強力に促進する要素となり得ます。

【図】Netfixのパーソナライズの例

具体的な施策

単にプロダクトやコンテンツ、サービスをおすすめするのではなく、ユーザーの過去の行動と直接結びつけて提示しましょう。ユーザー自身が作成したプレイリスト、頻繁に購入している商品、一気見した番組など、ユーザーが大切にしていることを覚えていると伝えるのです。

ユーザーに対して「私たちはあなたに注意を払っていますよ」と明確に示すことで、パーソナライゼーションはユーザーとの真の繋がりを築く手段となります。

【間違い2】ユーザーがパーソナライゼーションに関与できていない

多くの場合、デジタルプロダクトにおけるパーソナライゼーションは舞台裏だけで完結してしまっています。多くのマーケターが、「ユーザーは正解を提示されれば満足するだろう」と考えているからです。しかし、ユーザー自身がプロセスに関与している実感を持てなければ、その結果は信頼してもらえません。

レストランでの体験を考えてみましょう。席に着いた瞬間、ウェイターが突然「ピノ・ノワールでよろしいですか?」と聞いてくることはないはずです。その問いに「はい」と答えることも難しいでしょう。まず料理やワインの好みを尋ね、それを踏まえておすすめを提示してくれるので、私たちは納得感を持ってその提案を受け入れるのです。

プロダクトにおいても同じことがいえます。自分自身が関与し、情報を提供しているからこそ、その提案が信頼できるのであって、提案の背景が不明瞭であったり、提案に至るプロセスに自分が関与できていなければ、ユーザーは提案された結果を信頼しません。

【解決策】もっとユーザーに質問をする

ユーザーからの情報提供を促し、プロダクトへの関与感を高めましょう。人はプロセスに参加することで、結果に対してより強い当事者意識を持つようになります。行動科学の研究によれば、質問をすることで、ユーザーは「自分のニーズを理解してくれている」と感じ、提案を受け入れる可能性が高まることがわかっています。

もちろん、多くの質問を追加することは諸刃の剣でもあります。余計な摩擦はできるだけ避けたいところです。ただし、オンボーディングの段階でユーザーの好みやニーズ、希望などについて質問を行うような適切な範囲の摩擦は、かえってコミットメントを高め、プロダクトとのフィット感を強めます。

オンライン診療支援キットの「TytoCare」では、製品購入資格に関する質問を設けたところ、購入意向が37%から53%に向上しました。また、専門家マッチングサービスの「Thumbtack」でも、オンボーディング時の質問を5問から12問に増やすことでCVR(コンバージョン率)が15%改善しました。その後さらに質問数を合計20問まで増やしても、CVRは落ちなかったといいます。

【図】Netfixのパーソナライズの例

具体的な施策

パーソナライゼーションの仕組みにユーザーを巻き込み、その過程で積極的に質問を行いましょう。鍵となるのは、ユーザーとのコラボレーションです。

例えば、オンボーディングでユーザーの価値観やニーズを深掘りする質問を投げかけ、プロダクトがユーザーにとってどのように役立つかのイメージを明確に伝えたり、AIチャットボットを活用し、ユーザー自身の好みを反映しながら購入意思決定を支援したりすることが挙げられます。

【間違い3】ユーザーがパーソナライズされていることに気づけない

素晴らしい贈り物をもらったけれど、それを見つけるためにどれほどの労力がかかったか気づかなかったという経験はありませんか。多くのユーザーはパーソナライズされた体験に対して同じように感じています。結果は目に見えても、その裏にある工夫や努力が伝わらないのです。そして、努力が伝わらなければ、その価値も過小評価されてしまいます。

【解決策】パーソナライゼーションの「舞台裏」を見せる

人は、その結果を得るためにどれほどの労力がかかっているかを理解すると、価値をより高く評価します。ここで重要になるのが「オペレーショナル・トランスペアレンシー(作業プロセスの透明性)」です。

この点で所得税申告支援サービスの「TurboTax」は素晴らしい事例です。連邦税申告の情報を州の申告書に移す際、一つひとつの作業ステップをユーザーに示しながら進めます。彼らは単にタスクを終えてページを再読み込みするだけでなく、作業プロセス自体をユーザーに見せて、自分たちが行っている仕事の価値を伝えているのです。

ユーザーが作業プロセスを見ることができればできるほど、最終的な結果に対する評価や満足度も高まります。

【図】「TurboTax」のパーソナライズの例

ユーザーがパーソナライゼーションの価値をより実感できるようにするためには、舞台裏の取り組みをユーザーにもっと意識させることが大切です。次の2点を自問してみてください。

  1. ユーザーにその取り組みを、どのように見える形で伝えられるか?
  2. ユーザーが気づきにくいものの、知れば価値を感じるような重要なプロセスを強調できないか?

具体的な施策

せっかくのパーソナライゼーションの努力をユーザーに気づかれないまま終わらせないようにしましょう。例えば、読み込み画面における進捗ステータスの表示や、「これはあなたのためにこう選びました」といった説明を付け加えることで、ユーザーに対して「あなた専用の体験」を提供するために行っている努力を明確に伝えられます。

「人間味」のあるアプローチが重要

パーソナライゼーションとは、単なるテクノロジーではなく、人との繋がりです。ユーザーは「機能する」プロダクトを求めているだけではありません。

「理解されている」と実感したいのです。プロダクトの背後にある努力を目にしたい、プロセスに自分自身が関わっていると感じたい、そして自分という個人がきちんと認識されていると感じたいのです。この記事で紹介した3つの間違いを犯していないか、ぜひ振り返ってみてください。

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