2022.05.24
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もしあなたがアプリデベロッパーならば、下のグラフはあまり見たくないかもしれません。これを行動学者は「オーストリッチ効果」と呼ぶそうで、望まない状況を直視せず、事態の把握から顔を背ける現象を指すそうです。
この記事は、Irrational Labsのブログ ”Putting back users to the forefront: sustainable engagement tips from behavioral science” を著者の了解を得て日本語に抄訳し掲載するものです。 Repro published the Japanese translation of this original article on Revenue Wire in English under the permission from the company.
■アクティブユーザー数とアプリの利用日数の関係
一体何が起こっているのでしょう。なぜフィットネスアプリや瞑想アプリをダウンロードしたのにも関わらず、エクササイズや瞑想をしないのでしょうか。
これは「意図と行動のギャップ(Intention-Action Gap)」と呼ばれるもので、目標に対してそれを達成するための取り組みを行うことができない、実に人間らしい傾向が原因です。良かれと思ってダウンロードしたのに、他のことに気を取られてしまうのです。メールの返信、プレゼンの準備、スーパーの買い物リスト、子供のサッカーの送り迎え、Instagramのストーリーズの更新。明日こそはやろう、と思っていることは多々あります。
幸運なことに、行動科学に基づいたツールキットを利用することでより良い行動を促し、意図と行動のギャップを埋めることができます。この記事では、行動科学から学んだことを応用し、持続可能なエンゲージメントを促進するための3つの方法をご紹介します。
ユーザーに成功への道筋を示すためには、サービスに対するメンタルモデルを構築する必要があります。例えば、語学学習に関するサービスに携わっているとしましょう。平均的な人物、特に他言語を学んだ経験のない人物は、言語学習に対する明確なアプローチを持っていないかもしれません。どのくらいの頻度や期間、学習しなければならないのでしょうか。
ここでふたつの選択肢があります。
「Duolingo」の例を見てみましょう。
「カジュアル」「普通」「真剣」「マニアック」というラベルはもちろん主観的なものです。しかし、このアプローチが提供するのは「毎日5分から20分学習する」という基本の考え方をユーザーが理解するための出発点なのです。
マッチングアプリでも同じようなインターフェイスの設計をしています。「Bumble」の例を見てみましょう。
これは明らかに、ユーザーが一度に複数の人と交流を図るべきであるというメンタルモデルを示しています。6人という人数が適切であるかは別として、一度に交流する人をひとりに限定してしまうのは適切なアプローチではないという点は同意できるでしょう。このような設計がメンタルモデルを構築するのです。
成功の道筋を示すもうひとつの方法は、実行意図(implementation intentions)を利用することです。ある行動の詳細を明確化することで、ユーザーがその行動を取る確率を高めることができるという考え方です。
この方法を説明する例として、個人的に気に入っているDavid NickersonとTodd Rogersによる投票率の実験をご紹介します。この実験ではランダムに抽出されたふたつのグループの投票率の高さを比較しました。
最初のグループの有権者には選挙の時間や投票所の場所など標準的な情報を電話で伝えました。もうひとつのグループには標準的な情報の他に、いつ投票するのか、どこから投票所に向かうのか、投票所に行くために利用する交通手段など、具体的な質問をいくつかしたのです。
投票日当日、結果はどうなったと思いますか。後者の投票率の方が4.1%も高かったのです。これはなぜでしょう。投票所に行くためにはどのように行動しなければならないのかを具体的にイメージすることで「火曜日のマーケティング会議はいつも遅くなるからその前に投票に行こう」と事前に気が付くようになるのです。
もしこのような質問をされていなければ、会議が長引いてしまい、投票所に向かうことができなかったかもしれません。事前に行動を具体的に考えさせることはプランニング機能として働くのです。
実行意図を利用することで、アプリはユーザーが目標を達成するためにやり遂げなければならないことをサポートすることができます。ダイエットのサポートをする健康・ウェルネスアプリの「Shapa」を見てみましょう。
昨今のジョージア大学の研究によって、毎日体重計に乗ることと体重減少が相関関係にあることがわかったこともあり、Shapaはユーザーに体重計に乗ってもらうことを推奨しています。体重計に乗ることはほとんどのユーザーにはない習慣なので、オンボーディングの際、Shapaはユーザーに次の日いつ体重計に乗るのかを尋ねるのです。ユーザーは次の日のモーニングルーティンのことを具体的にイメージし、いつ体重計に乗るのが一番いいのかを決めます。Shapaはそれに合わせて体重計に乗るリマインダーを送るのです。
ピータードラッカーは「計測できることは管理できる」という有名な言葉を残しました。この言葉はアプリの世界において、重視したい指標によってアプリの設計が決まることを意味します。そして我々は度々誤った指標に焦点を当ててしまうのです。
デイリーアクティブユーザーはどうでしょうか。もちろん、デイリーアクティブユーザーは知っておくべき指標かもしれません。しかし本当に主要な指標として計測する必要があるのでしょうか。的外れな場合もあるのです。例えば、デイリーアクティブユーザーがわかったところでユーザーの進捗がどれほど進んでいるのかはまったくわかりません。それを管理するのが我々の責務なのではないでしょうか。
我々が計測したいことは、ユーザーが達成したい目標の手助けをできているのか、ということではないでしょうか。Shapaの話に戻りましょう。Shapaはダイエットのサポートをすることが目的であり、それこそが計測しなければならない指標です。目標が明確化したならば、どのように達成すればいいのかに立ち返りましょう。どのような行動をすれば目標に近づくことができるでしょうか(複数あることはよくあります)。その行動を取ってもらうためにアプリを設計するのです。
Shapaにとってその行動のひとつは体重計に乗ってもらうことです。体重測定画面はユーザーのダッシュボードの目立つ位置に表示されています。さらに、「Progress Review」と呼ばれるセクションでは、ユーザーが過去に体重計に乗った履歴も閲覧することができます。
もうひとつの素晴らしい例は「Badoo」が昨年(2018年)に行ったプレイタイムイベントです。Badooは複数のマッチングアプリを運営しており、ユーザー同士がお互いにハートを送ることができる機能を試験的に実装しました。どうなったと思いますか。20%ものユーザーがハートを送信したのです。これは成功といえるでしょう。エンゲージメントの指標が上昇したのです。
しかし、もう少し深くデータを見ていくとどうでしょうか。ハートを受け取ったあとの返信率は男性が6%、女性は35%も減少したのです。女性のリテンション率も1%減少しました。この事例からもわかるように、適切な指標を計測することがどれだけ重要なのかがわかります。Badooいわく、増やさなければいけないのは意義のある会話であるといいます。それは単なる「エンゲージメント」や「デイリーアクティブユーザー」とはまったく異なり、結果として設計が変わってくるのです。
もうひとつ考えておくべきことは、ある行動を促すような設計をするのなら、その逆の行動を促す設計もしなければならないということです。Badooは意義のある会話ができるように設計されています。それと同時に、有意義な会話に繋がりそうにないメッセージを送ろうとしている場合には、「you can do better」という小さなポップアップを表示させる「Bad Openers Blocker」という機能も追加しているのです。
3つ目の例はフィットネスの分野です。様々なジムやスタジオのレッスンを集約したアプリを設計していると想像してください。ユーザーはこれらのレッスンにアクセスし、アプリを通じて申し込みをすることができます。この分野でよく見られる設計として、同じレッスンを簡単にリピート予約できるというものがあります。例えば、こんな感じです。
問題は、レッスンをリピート予約できる機能に基づいて設計をするべきなのかということです。ユーザー視点でアプリに望んでいることを考えると
このふたつが目的でしょう。様々なレッスンを受けることでユーザーは楽しく続けられそうなレッスンを見つけることができますし、目新しい運動をすることでマンネリ化を防ぐこともできます。それと同時に、人間の体は同じ運動を避け、継続的に筋肉に刺激を与え続けると有効であるということがわかっています。
望んでいる結果を理解することで、それに合った行動を取るように設計することができます。例えば、レッスンの内容を変えていった方がいいのか、同じ授業を取り続けたほうがいいのか。それが決まれば最終的な設計に反映させるのです。
以前から、火曜日の午前6時にレッスンを受けており、その時間帯のレッスンが受けやすそうだということがわかれば、同じ時間帯の他のレッスンを提案することができます。他にも、Xというレッスンを受けているユーザーはYというレッスンを好む傾向があるということがデータでわかっているのなら、Yを提案するのです。バレエエクササイズのレッスンを受けているユーザーは、ピラティスのレッスンも好んで受けている状況を想像してください。このような場合、バレエエクササイズ受講者にピラティスを勧めるのです。
これらの例はすべて、長期的なエンゲージメントを築きたいのであれば、適切な指標を計測することが重要である、という点を示しています。
長期的なエンゲージメントを築くために必要な3つ目の要素は信頼です。アプリへの信頼度はかつてないほど低く、Common Sense Mediaによる最近のレポートではティーンエイジャーの72%がアプリに操られていると考えていることがわかっています。信頼が長期的なエンゲージメントを築くうえで重要な要素だということはいうまでもありません。問題は、信頼をどのように捉え、構築するかです。
信頼とは、関係性が長期的なものであれ短期的なものであれ、相手の利益を最大限に考えながら行動するということです。私の上司であるDan Arielyとの間にこんなエピソードがあります。彼は最近TEDxで信頼について講演を行いました。この話は私が彼のもとで働き始めた頃まで遡ります。そのときの私の給料は月給制でした。数カ月後、Danは「今、1年分の給料を受け取ってもらうのはどうだろう。毎月支払うよりいいと思うんだ」と言ったのです。
そう言われた私はどう思ったと思いますか。Danは短期的な取引のような関係ではなく、信頼に基づく長期的な関係であると示してくれたのです。まだ達成していない仕事に対してお金を支払うことは彼にとってはリスクのあることでしょう。だからこそ、そうすることで私に対する信頼を示してくれたのです。ご想像の通り、私の彼に対する信頼感は深まり、より良い仕事がしたいというモチベーションになりました。
アプリは、このような信頼関係をユーザーと築かなければなりません。ユーザーの成果に対して真摯に向き合い、彼らの目標に寄り添わなければならないのです。それは同時に、相手にとっては得することであっても、自分は損することもあることを意味します。ライドシェアアプリがドライバーに運転をやめるように提案する世界を想像してみてください。このメッセージは自分のことよりもユーザーを大事にしていることを示す非常に強力なメッセージです。これによってユーザーは長期的な関係を築こうとするでしょう。
競争の激しいアプリ業界で、様々なビジネスコンセプトが乱立しているのは当然のことです。エンゲージメント、DAU/MAU比率、マネタイズ戦略。今こそユーザーファーストで考えるべきときです。アプリをダウンロードした当初の目的は何だったのか、そしてそれをサポートするために何ができるのか。それこそが持続可能なエンゲージメントであり、最終的なビジネスの成果をもたらすべきなのです。
アプリデベロッパーの多くは前向きな信念を持っています。瞑想、運動、睡眠、貯蓄、生産性の向上など、人の役に立つプロダクトを制作したいと考えています。行動科学の力を利用し、ユーザーの意図と行動のギャップを埋めることで、目標を達成するということに深くかかわる機会があるのです。
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